2021年3月3日、後発医薬品メーカー大手の日医工が業務停止命令という非常に重い行政処分をうけました。
この事件が薬局業界・薬剤師にどのような影響を与えるか考えてみたいと思います。
①後発医薬品(ジェネリック医薬品)の供給が不安定になる
まず目に見えて影響がある事として、後発医薬品の供給が不安定になります。
今までも自主回収が起こると他のメーカーに切り替え、他メーカーも普段以上に注文が殺到し供給が追い付かないという事態がたびたびありました。
今回は業界大手の日医工で回収となった品目数も多いです。さらに1ヶ月の業務停止。他メーカーからすればシェア獲得の大きなチャンスですが、急に注文が殺到しても安定供給できるかどうかはわかりません。日本薬剤師会の山本会長も2月末の時点で、業務停止をうければ影響はかなり甚大とコメントを出しています。
大手後発医薬品メーカー(沢井・東和など)のパワーでどれだけカバーできるかにかかっていますが、今までも供給不安定な医薬品が出てきていたので、メーカーを変えて注文すればすんなり解決というわけにはいかないでしょう。薬局は代わりのメーカーをどこにするか?安定供給は可能か?など普段の業務+流通の面での仕事が増えて混乱するでしょう。
②後発品体制加算への影響
経営的な視点で見ると利益の部分に直結する大問題です。
後発品体制加算とは、簡単に言うと薬局が後発医薬品(ジェネリック医薬品)をたくさん調剤していると国から「追加でとっていいよ!」と認められる料金です。
後発医薬品(ジェネリック医薬品)を調剤している割合に応じて認められる仕組みで、追加でとれる金額は
75%:150円
80%:220円
85%:280円
となっています。
一番高い割合でも処方箋1回受け付けて280円。大した金額でないと思う方もいるかもしれません。
しかしこれはまるまる利益として計上されます。
売り上げではなく利益です。
処方箋月に1000枚受け付けてるとすると28万円が利益として上がるんです。
パート薬剤師なら雇える金額です。
昨年の9月段階で日本の後発品使用率は78%(政府目標は80%)
単純に考えるとほとんどの薬局はこの加算で利益を得ている計算です。
今回の事件はこの加算の目安となる後発品の使用割合を大きく下げる可能性があります。
まず①でご説明した通り、後発品が注文しても入ってこないからと言って薬を飲まないわけにはいきません。では後発品が入ってこなかったらどうするか?先発医薬品を調剤するしかありません。
なので物理的に後発品が手に入らないから先発品で調剤するという状況が起こりえます。
次に消費者(患者さん)心理です。
12月の小林化工につづいてまた後発品メーカーの不祥事です。
前回は小林化工というマイナーな会社でしたので、「この会社だけが悪い!」「ジェネリック医薬品が悪いわけじゃない」という説明がしやすかったと思っています。実際私も店舗で調剤応援に入った際にそのような説明を患者さんにしました。あわせて小林化工の薬を自分が飲んでいるとわかりずらい状況でした。小林化工の薬は○○錠5mg「KN」や○○カプセル10㎎「MEEK」といった名前で出されており、パッと見て小林化工の薬とはわかりません。
しかし今回は後発品メーカートップ3の一角、日医工の不祥事です。後発医薬品(ジェネリック医薬品)は信用できないという患者さんも間違いなく増えるでしょう。
そして販売されている薬の名前にも○○錠5㎎「日医工」、○○テープ100㎎「日医工」など誰が見てもわかるレベルで会社名が入っています。
使っている人はどう思うでしょうか?今飲んでる薬が回収対象でなくてもすぐ変えてほしいですよね?他のジェネリックに変えますか?薬のことがあまりわかっていない患者さんはジェネリック嫌ってなりますよね?
立て続けに起こった後発医薬品メーカーの不祥事で消費者心理的に後発医薬品(ジェネリック医薬品)は敬遠されます。
その結果80.2%とか85.3%などぎりぎりで加算をとれていた薬局は下がります。どれだけ下がるかはわかりませんが、1段階は下がる薬局が多いと思います。
先ほども記述した通り、まるまる利益の部分が下がるのは経営的に大打撃です。
サラリーマン薬剤師だから関係ないと思っている人はいませんか?会社の収入が減るという事はボーナスや基本給以外の手当てに影響することがありますよ。現にコロナの影響で大打撃を受けた中規模薬局で働いている薬剤師が給料を減らされたなどという話も聞きます。
この後発品体制加算に関わるところが薬局に与える影響の2つ目です。
③国民医療費増大→報酬改定への影響
①、②より後発医薬品ではなく先発医薬品を使う患者さんが増えることはわかりました。それは最終的に国民医療費の増加につながります。
国民医療費が増加するとどうなるか?薬価・調剤報酬が下げられます。
薬剤師は基本的に国の決めた報酬に従って商売をします。
この報酬が下げられることで薬局の売り上げが決まりますし、薬剤師の賃金が決まります。
次回の改定でも、基本的な部分の報酬は下げられるでしょう。国の求める働きをしている薬局にはしっかりと報酬を与え、それ以外の薬局に対しては切り詰めていくというのが最近の報酬改定の傾向です。医療費が増加することでさらに厳しい改定となることが予想できます。
ただでさえ80%の後発品使用率目標を下回っている状態+今回の後発医薬品メーカーの不祥事でさらに下がるとなれば次回改定の後発品体制加算はどうなる事か…。
以上の3点より、今回の事件は薬局業界、さらには今後の薬剤師の収入についても多大な影響を与える可能性があります。
起こってしまったことは仕方ありませんので、後発医薬品業界、医薬品卸、現場の医療機関一丸となって後発医薬品の信用を取り戻さなくてはいけません。
現場で働く薬剤師は国に守られた職業であるとともに、国の決めた報酬で人生が左右される職業という事を理解して人生設計をしましょう!
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